車椅子は矛盾と思考の中で【物の気持ちシリーズ】

本当は僕なんか生まれなければよかったんだ
それがみんな健康で自分の足で「歩ける」って事だから…
僕は歩けない人の歩行を助けるために生まれた
だから どんなに痩せ細ってる人の身体を僕の上に乗せても
その人の体重とか関係なく 僕にとってはすべての人の人生が重たい
「君にはどんなに辛い事があったの?」
「あ、いや…ごめん、言わなくていい、言わなくていいんだ」
「でも 今まで凄くすごく辛かったね 僕の上に乗って その身体を全部僕に預けて」
「もう無理しなくていいんだよ 痛い足を我慢しなくていいんだ」
そう僕は 車椅子のタイヤの一部を使って ギシギシッと心の声を音に出して喋った
僕の名前は車椅子 足の悩みを抱えたすべての人の救いになるべく生まれた介護用の乗り物だけど
だけど だけど だけど さっきも言ったように僕は生まれて来ない方が良かったのかもしれない
だって僕を必要としない事が 僕の存在が要らない方が
みんなに足の痛みがないって事で「みんな幸せ」って事だから
僕の心はいつも 僕を必要として欲しいのに
それを望んだら人間の不幸を望む事と同じ事になるから複雑なんだ
僕は普通の車椅子 そして僕の想いは叶っているのか叶っていないのか
世の中には電動車椅子と言う存在も生まれてしまった
しだいに人々は笑顔を取り戻して行き 外の世界に飛び出せた人もいるけど
本当は車椅子の僕も 電動車椅子のあいつも 本当は存在しない方が幸せの証拠だった
でも僕達はここにいる「もう嫌だ!もう嫌だよ!僕はどうすればいい?わからないよ!」
「僕は生まれて人は幸せになれた?」
「でも僕がいない世界があるとしたらそこの住人はみんな歩けるって事になるから」
「僕は生まれて人を幸せに出来たのかな?僕は生まれなかった方がみんな幸せだったんじゃ?」
「僕の存在は何なんだろう?幸せって一体何なんだろう?」
日々考えタイヤをまわしすぎて空気が抜けてしまった…もうタイヤがパンクしそうだ…
気が付けば車輪の銀も少し錆びて来ていて疲れを感じる
ブレーキを押すとキュッキュッ鳴ってコントロールが上手く行かない
どうしてもまっすぐ進みたくても右へ右へ行ってしまう
僕は足の痛い人を乗せながら日々悩んで 悩み疲れて思考回路が壊れてしまった
いっその事もう車椅子は車輪で移動の時代を卒業して
翼で飛行するようになればもっと早く もっと楽に駅の階段なんかも一っ飛びなのに
この際それに加えて船の機能も付けちゃえば何処にでも行けるのに
でも僕は生憎の ただの普通の一般的な車椅子だから結局僕の願いは叶わない
僕は僕が生まれて人々を幸せに出来てるのか 僕がいない世界の方が人々は幸せだった?なんて事も考える
僕は生まれた 僕は生まれたけど 足が痛くて車椅子に乗って作れた笑顔に本当の幸せは作れているのか
もしも僕がいない世界で車椅子がない世界で誰もが全員歩ける世界があったらと思うと
「幸せって一体何なんだろう?」って葛藤から抜け出せなくて僕は辛いんだ
「だから ねぇ 教えて?僕は、僕は生まれてよかったの?」
「僕は君の人生の何分の一くらい役に立てているだろうか?」
今日もそんな想いを抱えながら車椅子は人の身体だけではなくその重たい人生も乗せて何処かで走ってる

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